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「弁当の日」という取り組み

「 “子どもが作る” 弁当の日」とは?

2001年に香川県の小学校ら始まった「 “子どもが作る“ 弁当の日」。これは、献立、買い出し、調理、弁当箱づめ、片付けまでの一連を、子どもに自分だけで行わせるといった取り組みです。

( 詳しくは 【 食育 最前線 】「 “子どもが作る” 弁当の日 」を知っていますか? でご紹介しています。)

反対意見・・

この取り組みを始めようとしたときに、当然、反対意見も続出したそうです。

「包丁を持たせて、ケガでもしたら・・」「ガスを使わせて、火事でも起きたら・・」「子どもが早起きするわけがない! 結局親が作ることになる!」etc. という保護者の声。また教員からの「経済的に厳しい家庭の子はどうするのか・・」etc. との意見。

『かわいそうな子もいる・・』これは、必ず出てくる意見ですよね。しかし、そもそもの『かわいそうな子』とは、どういう子のことなのでしょうか?

『 かわいそうな子 』!?

『 かわいそうな子 』とは 誰が決めるのでしょう?

あるご家庭のお話をご紹介します。

小学5年生の時に、両親を事故で亡くされた女の子がいます。そして、その時、下に2人の弟もいたのだそうです。親戚間で話し合い、3人はそれぞれ違うお家に引き取られることに話がまとまりかけた時、おばあちゃんの計らいで、女の子の意見を聞いてもらえることになりました。

そして彼女は、「姉弟3人がバラバラになるのは嫌。親から家事のすべてを教わっていたので、自分が弟2人の面倒をみる。だから姉弟で一緒に暮らさせてほしい。」といい、自分が弟たちの親代わりになる決意を伝えたそうです。そして、親族たちもそれを承諾したのだとか。

そして彼女は、2人の弟を育てながらたくましく生きてきた。いまでは、その弟たちも社会人となり、彼女も結婚し子宝にも恵まれているといいます。そんな彼女が、竹下先生の講演後に泣きながら話してくれたことがあるそうです。

「家事をすることも、弟の面倒をみることも、自分にはつらくなかった。親から教わりできることだったから。でも、とてもつらかったことがある。それは、周囲の大人たちから「あの子は『かわいそうな子』だ。」という “上から目線” で見られたたことだった‥」と。

そして、「私は『かわいそうな子』じゃないです!」と話したそうです。

女性(腕組み)

なんだか、考えさせられる話ね・・

様々な家庭環境

家庭環境は様々ですよね。いまは社会が多様化しているので、尚更そうです。

不慮の事故や病により、親を失くしてしまう家庭もあります。親が離婚し、片親の家庭もあります。

親がいても、ほとんど家に居ないといった家庭もあります。そういった状況で祖父母に育てられる子もいます。祖父母といった存在もいない場合は、一番上の子が下の子の面倒をみている家庭もあるようです。そして、「お金もない‥」「ごはんも作れない‥」で万引きをせざるを得なくなる子もいるそうです。

また、両親がいたとしても、親の手料理を一度も食べたことがなく、菓子パンやカップ麺やコンビニ弁当で過ごしている子もいるそうです。

夏休みにまともな「食」を摂れずに、夏休み明けに痩せて登校してくる子がいるとも聞きます。

『 かわいそう 』だから そのままにしておくのか?

「『 かわいそうな子 』がいるから「弁当の日」はやめた方がいい!」と言いますが、そうやって、腫れ物に触れるように接していくことや、あわれみの眼で見ていくことが、果たして、その子たちのためになっていくのでしょうか?

もし、親がいない状況でも、自らのチカラで食事を作っていける子だったら、下の子のために市販の弁当を万引きしなくても済んだかもしれません。学校のない夏休みにひもじい思いをしなくても済んだかもしれません。

親の手料理を一度も食べたことがない子が、このまま「食事を作る」ということを知らないまま大人になり、結婚して子どもを授かったとして、子育てを楽しむことができるのでしょうか? そして、その生まれた子の「食」も、散々なものになっていってしまいますよね。

「『 かわいそうな子 』が嫌な思いをするから、やらない方がいい。」という考え方ではなく、『 かわいそうな子 』の心や毎日に寄り添ってみようとすること。すると、この「弁当の日」は、その子たちの日々の生活の手助けとなっていく可能性をもっていることに気づかされるのです。

女性(腕組み)

そうよね‥ 「与えているだけ」だと、与えられなくなった時のその子たちは救えないわよね‥


「弁当の日」が起こした奇跡

以下に2つの話をご紹介します。これは「弁当の日」を実践している学校で実際にあった話です。

父子家庭のC君

C君はお父さんと2人暮らしです。食事はコンビニ弁当か外食だけのようでした。

そして、お父さんから先生に、「「弁当の日」をやめてほしい‥」という電話があったといいます。そして、先生が家庭訪問に行くと、「母親がいる家庭では、一緒に楽しく弁当作りの練習をしているのかもしれないが、うちでは、それをしてやれない‥ 息子がかわいそうだ‥ だから「弁当の日」はやめてほしい‥」と言っていたそうです。

そこで先生が言いました。「離婚するときに、どちらが子どもを引き取った方がいいかを、とことん話し合って決めたのでしょう。ならば、「俺が引き取ったから、『かわいそうな子』‥」ではなくて、「俺が引き取ったからには、一人前にしてやる!」という行動をとったらいいのではありませんか?」

そして翌月のお弁当の日には、前回は総菜を詰め替えただけのお弁当を、背中を丸めて食べていたC君が、自分で作った卵焼きを自慢げにみんなに見せていたといいます。

じつは、家庭訪問後、お父さんに変化が起こったのだそうです。「男は台所に立つもんじゃない!」が口癖だったお父さんが、おばあちゃんに料理を習い、料理本をめくり、料理番組を見てメモと取るようになっていったといいます。そして作ってくれた卵焼き。そしてその作り方も教えてくれたのだとか。

「弁当の日」が、C君の食生活のみならず、親子関係にも何かしらの変化のきっかけを与えたのです。

女性(笑顔)

すごいわねー。 たしかに「子どものため」って強くなれるのよね。

母親が家を出ていってしまったというDさん

思春期のDさんは、家を出ていった母親を憎んでいました。そして母親を追い出した!と父親のいうことも全く聞きません。

しかしお父さんは、「弁当の日」が近づくと、作り方がわからずにつらそうにしている娘の姿をいたたまれなく見ていたそうです。

そして、追い出した母親のところに頭を下げに行き、「「弁当の日」だけでも、帰ってきて、娘に弁当の作り方を教えてあげてほしい。」と頼んだそうです。

そしてお母さんの返答は、「帰ってもいいの?」だった。その言葉は、母親が娘を今でも愛している証でした。

「弁当の日」が、ひどく憎みあい仲直りできなかった2人を、Dさんという存在を挟み、再び接点を持つためのきっかけとなっていったのです。

女性(笑顔)

「弁当の日」が、こんなふうに「家族の在り方」を変えるきっかけになるよこともあるのね!


まずは「やってみる!」 そこから考えればいい

子どもの貧困問題、虐待の問題、その他さまざまな家庭の問題・・ 確かにたくさんあります。そして、その子たちの置かれている環境は非常に厳しいものです。

でも、だからこそ、私たちが出来ることを探していく必要がありますよね。

何か新しいことを始めるときや、何かに変化を持たせようとするときには、必ず反対意見が出てくるものです。でもまずは「やってみること!」そこから何かしらを実感していけばいい。そして課題が出てきたら、そこから考えればいいのです。

そうやって、目の前のお子さんの「生きるチカラ」を信じ、見守ってみませんか?

「弁当の日」応援プロジェクト

ひろがれ「弁当の日」ウェブサイト

<参照文献> 食育最前線2 進化する!!「弁当の日」