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あなたが、お子さんに残してあげられるものとは・・
「もし、あなたに5歳のお子さんがいたとして、しかし突然、「余命5カ月」と宣告されたとしたら・・ あなたは、お子さんに何を残してあげられるでしょうか?」
そんな問いから始まる竹下和男先生の講演会。
「弁当の日」
ある学校の校長先生の発案により始まった「弁当の日」
竹下和男先生は、いま、全国の学校に広まっている「 ”子どもが作る” 弁当の日 」の提唱者です。先生はもともと小中学校の教員を経験されたのち、校長先生としても務められ、退職したいまも執筆や講演活動などを行っているといいます。
この「弁当の日」は、竹下先生が小学校の校長を務めていた2001年に始めたそうです。その取り組みが、現在では、全国で1800校以上もの学校に広がりをみせており、そして、その「弁当の日」から得られる効果は計り知れません。
「弁当の日」と聞くと、たいていの親は、自分が子どもに弁当を作って持たせる日だと思いますよね。でも、竹下先生が提唱し広めている「弁当の日」は違います。
これは、献立・買い出し・調理・弁当箱づめ・片付けまでのすべてを【子どもだけ】に行わせるといったものです。「親は手伝わないで!」それがこの「弁当の日」の約束です。
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【子どもだけ】にやらせるなんて、考えたことなかったわ‥
なぜ、お弁当作りなのか?
先生が「弁当の日」を創ろうと思ったきっかけは、給食をおいしそうに食べていない子が、年々増えていることに危機感を感じたからだそうです。
昔は、「給食」と言えば、学校生活の中での一番の楽しみと言っても過言ではないくらいでしたよね。しかし、いまは違います。残飯量は膨大で、「給食を全部食べられない」が当たり前。全部食べる子はみんなの前でとても褒められるくらいです。
自分たちの感覚からすると、「給食を残さず食べる。」は当たり前じゃないか!と思いますが、現代では、それほどまでに「食」への興味というものが薄らいでしまっているのです。
竹下先生は、「どうしたら、子どもたちが、「給食がおいしい!」「食べることが楽しい!」と思ってくれるだろうか?」と考えました。そして思いついたのが、献立・買い出し・調理・弁当箱づめ・片付けまでのすべてを【子どもだけ】に行わせるということだったといいます。
そういう経験が、「食べ物を大切に思って、作ることの楽しさが身についた子どもたちを育てるのではないか。」と思い、「とりあえずやってみる!」から始めていったそうです。
幼少期の経験がそのまま脳を形づくっていく
いまの子どもたち
先生は、各地に講演へ出かけ、学校でお話をするたびに、聴講の子どもたちに、「今、家族みんなのごはんが作れる人は手をあげてください。」と問うそうです。
その結果、手が上がるのは、小学校で1%未満、中学校で1%未満、高校で1%未満なのだとか。
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中学生も、高校生も、1%未満 なの!?
そうなんですよね。料理というのは年齢が上がったかたといって自然にできるようになるわけではありません。経験からできるようになっていくものです。
いまの子どもたちは、そういった経験の機会がほとんどつくられていないがために、ご飯をつくることが出来ない子が多いのが現状。
そして、こんな中学生の実例もあるといいます。
一人でお弁当を作った男子。ブロッコリーが茹でずにそのままお弁当箱に入れてあったそうです。母親がそれを指摘すると、「えっ、ブロッコリーは生で食べているのと違うの?」という反応だったとか・・ 普段食べている野菜が茹でてあるものなのか生のものなのかの区別がついていないのです。
調理実習で「なべ料理」を作らせたところ、土鍋のだしが沸騰して野菜や肉などの具材を入れたら、すぐに食べようとした学生・・ 「火が通ってから食べるように。」の意味が理解できない。煮えるのには時間がかかるということを知らない。そんな様子だったといいます・・
「家でなべ料理を食べたことがないのか?」と尋ねると、「いつもは、食べる分だけ取り皿に入れてくれる。」との答えだったのだとか。
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そっかぁ。何でも「やってもらう。」で育ってしまうと、自分で何もできなくなってしまうのね・・
経験がそのまま脳を形づくる
「人は置かれた環境に適応する」・・そんなふうに竹下先生は表現します。
また、「幼少期は「脳」という「ハード」を形成している時期でもある。」「「ソフト」ではなく「ハード」をつくっているのだ!」というような表現もされていました。
<「ハード」と「ソフト」>
スマホをイメージするとわかりやすいです。「ハード」というのは、基礎ですね。つまり、スマホ本体のこと。「ソフト」というのは、その中に入れるアプリのことです。
親に、「台所に立つことは、あなたの仕事ではない!」「あなたは勉強さえしていればいい!」とされ、「食事のお膳立て」をすべてしてもらって育った子どもは、「食事は誰かに与えてもらえるもの」として脳をつくっていきます。
そして、「食事は誰かが与えてくれるもの」として形づくられた「ハード」には、「食事を作ろう!」というアプリはダウンロードできないのです。
「食」は生きていくために必要不可欠なもの。それを自ら作り出せない人に、我が子を育てたいと思いますか?

思わないわ・・
だからこそ、「食事を作る経験」をさせる必要があるのです。ただ、そこには危険が伴います。調理には「包丁」と「火」を使いますよね。それがゆえに、親たちは、子どもがケガをすることを心配し、台所に立つことを敬遠させてしまいます。
しかし、そうやって親が先回りをして子どもの危険を取り除くということは、子どもは「どこまでやると危険なのか?」もわからないまま育っていくことにもなるのです。
人は失敗を繰り返すことによって、大きな失敗をしなくなると言います。だからこそ、子どもには、失敗をたくさん経験させてあげてください。
人の役に立ちたいという本能
人の脳は、「人の役に立った!」と実感したときに、発達していくそうです。
特に、前頭前野という場所。ここは、私たちを最も人間らしくしている部分だと言われます。専門的には「共感脳」と言って、相手の気持ちを推し量るといった働きをしているところです。これが社会生活を営む上で最も重要になってくることから、現代では「社会脳」や「人間脳」などいった言われ方もします。
そして、ここが発達する年齢が8才~19才です。
「料理を作る」ということは、その料理を食べて喜んでくれる人がいるということです。人は、誰かに喜んでもらえると、「もっと、やりたい!」という意欲が湧いてきます。そして、その意欲が、さらに個人を成長させていくのです。
「弁当の日」の効果
「弁当の日」をやってみたら見えてきた成果
「弁当の日」を実践していくと、まず、子どもたちは「食事を作る」といったことの大変さを実感していくそうです。そして、いつも食事を作ってくれているお母さんへの感謝の気持ちも湧いてくるのだとか。
また、包丁やスライサーで指をけがしてしまったりとしても、その経験から、次はケガをしないためにどうしたらいいのかを自身で習得していきます。
また「弁当の日」で特に効果的なのは、友だちとの見せ合いっこだそうです。お友達はどんなお弁当をどんなふうにして作ったのかな? 「すごいね!」「上手だね!」が、また「自分ももっと上手になりたい!」という意欲へと変わっていきます。
「めんどくさい‥」と親に作ってもらった生徒も、友だちが自分で作った弁当の見せ合いっこをしているのを見ると、バツが悪くなり、「次からは自分で作ろう!」と決心するといいます。
また、下級生が上級生のお弁当を見ることも効果的です。「おいしそうなお弁当を自分で作っているお兄さんお姉さんのようになりたい!」という憧れは、さらに大きな意欲へと変わっていきます。また見られる上級生も、その喜びは、次への意欲へとつながっていきます。
そうやって、「食事を作る楽しさ」を体感していった子どもたちは、「「食」は大切な恵みであること」「「食」を作り出す喜びがあること」を知り、それを脳に刷り込んでいきます。
さらに、家族のために食事作りをして喜ばれると、自分の存在価値も見出されていきます。
やらせればできるようになる!
子どもは何もできない存在ではありません。「子どもだからできない!」と決めつけ、やらせないからできないだけなのです。子どもは、与えられた環境に適応していくように脳を形成していきます。
だからこそ、まずは、やらせてみること。「やりたい!」と言ってきたことを、「危険だからダメ!」と禁止するのではなく、どうやったらできるかを一緒に考えていく習慣をつけること。そこから始めていきましょう。
そして、そこから生まれる「自らの力で生き抜く強さ」を育んでいってあげましょう。それは、子どもにとっての「一生の財産」になっていくはずです。

そっか!「やってみよう~♪」なのね。