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給食を変えたことで今治市に起こった変化

「地産地消」のまちに

いまでこそ「地産地消」という言葉はメジャーになり、その土地のものをその土地で消費していこう!という風潮が強くなっていますが、当時はこういった言葉すらなかったと言います。

それが、給食をきっかけに、また、食の安全を確保するための都市宣言も後押しとなり、「地元で採れたものを地元で食べていく」ということ、また「有機農産物を積極的に食していく」ことが、当たり前になっていった今治市。

そんな「地産地消」は、給食を皮切りに、一般家庭へとも浸透していったと言います。するとそれに伴い 商店街でも「地産地消」を前面に出した品物が売り出されるようになり、「地産地消」を売りにしたおばちゃん食堂や有機レストランも続々できるようになっていったそうです。そして、スーパーでも「地産地消」を第一に掲げるようになり、ひいてはホテルまでもが「地産地消バイキング」などを打ち出してくるほどになったのだとか。

そうやって、今治市は「地産地消のまち」になっていきました。

そして市政も「地産地消」や「有機農業の促進」に力を入れるようになり、新市長に変わるたびに、新たに一歩踏み込んだ条例や政策が打ち出されるようになっていったそうです。

給食の「地産地消」や「有機食材」の充実化

そして、給食内容や食育に関しても、市や関係者は、大変な熱意と努力と金銭面の負担を強いていったと言います。

「地元産特別栽培米」の導入

当時は、全国学校給食会の指定物資である米、パン用小麦、牛乳は、各都道府県学校給食会からの購入が義務づけられていたそうで、それらを地元産に切り替えるというだけでも相当な苦労だったようです。

そんな中、今治市は、「地元産のお米」というだけでなく、子どもたちの健康や安全面も考えた上で、(農薬や化学肥料の使用を慣行栽培の半分以下に抑えた)「特別栽培米」の導入を試み、交渉を続けていったと言います。

そして難航した交渉の結果、そこで生じる財政面の赤字や責任というのを、市や農協でカバーする形をとることで、「地元産の特別栽培米」そして精米したてのお米を学校給食で提供することをが実現したそうです。

すると、それを受けて、近隣の自治体も、次々に「地元産の特別栽培米」の導入していけるようになったそう。そして、県としての「特別栽培米」の作付面積も増えていったと言います。また、それは米だけにとどまらず、野菜や柑橘類にも広がっていったそうです。

パン用小麦も地元産へ

そして米が成功すると、今度はパン用小麦を地元産にできないか?という試みが始まります。しかし、市内のパン用小麦の生産は0という現状・・ そこから、その土地にあった小麦の品種選びや栽培実験からスタートしていったそうです。

そして試験的にできた小麦でパンを作り給食に出すと、思いのほか好評だったのだとか。そして、そこからパン用小麦の作付け面積はどんどん増えていくことに。結果、1999年には0だった小麦生産が、10年後の2009年には、作付面積が21haにもなったのだそう。

これは、地産地消の給食を試みたことにより、新たなパン用小麦のマーケティングが生まれた!ということです。

豆腐もうどんも

そして、パンも成功すると、次は豆腐。次はうどん。というように、どんどんと地元産の食材が給食に導入されていくようになったと言います。

女性(笑顔)

なんだか素敵ね。「子どもたちの食べる給食内容を充実させるための取り組み」から、地域がどんどん活性化していっているのね。

「食育」のあるべき姿

今治市の「食育」

地産地消給食による「食育」効果

このように「地産地消でオーガニックな給食」の取り組みをしてきた今治市。そこにはどのような効果が出ているのだろうか? と、1988年から21年後の2003年に、当時小学4年生だった子どもたちを調査対象としてのアンケート調査を実施したそうです。

結果、この地域の給食を食べてきた子ども達は、他の地域で給食を食べてきた子どもたちよりも、食材を選ぶときに、「地元産であること重視」したり「産地や生産者が確かであることを重視」したりとする傾向が高かったと言います。

これだけでも高い食育効果が伺えますよね。何を教えたわけでもないけれど、毎日食していた給食の在り方が、子どもたちの中に根付いていたということ。

男の子(ふーん)

確かに! お勉強したことより、お芋堀りして食べた焼き芋のおいしさとか、給食のおいしさとかの方がよく覚えているかもね!

今治市で行われた「食育モデル事業」

この結果を受け、今治市では、さらなる食育効果を目指し、「学校給食」と連動しての「食育の授業」を模索していったそうです。

そしてその内容は、スローガンやイベントで終わってしまうような、栄養指導だけだったり、調理実習だけだったりとするものではなく、「地元食材を重視し、日本型食生活にこだわったもので、子どもたちが調理の技を身につけ、生活の場に実践していけるようなものでなければならない。」と考えていったそう。

そして、大学教授や栄養士とともに取りまとめられた「食育カリキュラム」の骨子案をもとに、今治市で行った「食育のモデル授業」。

その内容が面白いのです。全6回に分けたこのプログラムでは、「CMなどに惑わされず自分の体にとっていい食とは何かを見分ける技」「自分の食生活を知る技」「生活習慣病にかからない技」「買い物の技」「調理の技」を習得するための授業として考えられたものなのだとか。

まず、最初の授業では、子どもたちに10年後の夕食を描かせたそうです。すると、1/3以上の子どもがカレーライスやステーキ、カップ麺、ハンバーグなどを描いたのだとか。

そして、自分の食生活と排便の状態を記録に取ってくるようにと宿題が出されます。

2回目の授業で、その絵と描いた理由の発表です。すると、大抵が「好きだから、食べたいから描いただけ。」といったものだったそうです。

そして、ここで、実際の大学生の食生活を写真で見せていくということを行ったのだとか。それがとても衝撃的な内容・・「バナナとジュースだけの昼食」「いなりずしとカップ麺の夕食」「小さなお菓子とジュースの昼食」「リンゴとコーンフレークだけの夕食」etc. ・・それを見た子どもたちの反応は、「こんなふうになるのは嫌だ!」という率直なものだったと言います。

そして、「食事と便の関係性」についても学んでいきます。子どもたちは、自分の食生活と排便の記録と照らし合わせながら、さらに「どんな食べ物を食べたら、どんなうんちが出るのか?」を模型を使った授業で考え、「うんちが健康のバロメーターであること」を教わっていくのです。

3回目の授業は、栄養士さんによるもので、カップ麺やポテトチップスに含まれる油や塩の量などを視覚的に見せていったといいます。

4回目の授業は、買い物の技、調理の技を身につけるとして、清涼飲料水にどれくらいの砂糖が含まれているかを知り、実際に、砂糖水から、そこに色素と香りを足してジュースを作ってみるなどして、人工的に作られるジュースというものを知っていくというもの。またそこで表示の見方についても教わっていきます。

そして、野菜を、生のものと火を通したものとで体積を比較していくといった実践もしながら、効率よく栄養を摂れる方法を学び、さらに、お味噌汁の作り方、ご飯の炊き方、魚の焼き方なども習っていきます。

5回目の授業は、子どもたちが基本の献立を立て、実際に作るといったもの。「買い物から調理、後片付けまで子どもが行い、家族にご馳走してくる」といったことが宿題で出されます。ここでは、地産地消のものや有機野菜のものを取り入れた献立が続々と発表されたそうです。

そして最後の授業。これまで学んできたことのまとめで、様々な感想などを発表し合います。そして最後に、再び、10年後の夕飯を描かせたのだそうです。すると、見事にみんな、「ごはん、みそ汁、おひたし、焼き魚」の絵になっていたそう。そして、みんな、描いた理由を「体にいいから。」と胸を張って言っていたといいます。

男の子(まる)

おもしろそうな授業! ぼくも受けたいな。

この授業の成果はものすごく、授業の効果を測定するために前後で実施したアンケートの結果をみると、子どもたちの中に明らかに変化が起こっているといいます。

一つは、食べたいものを食べればいいという意識から、体の健康を考えたものを食べたいという意識に変化したこと。もう一つは、買い物の技、野菜を食べる技、排便を観察する技といった具体的な手法を獲得して、健康を自己管理できるようになったこと。

女性(ポイント)

理想の「食育」のかたちね。いまって、何か頭でっかちで理論ばかりの「食育」が多いのよね‥ こうやって自分の生活に反映できるような「食育」の在り方って、やっぱり大事よね。

大切なのは「何を伝えようとするか?」の軸

子どもたちの頭はとても柔軟です。私たち大人が「何を子どもたちに伝えたいと思うのか?」「子どもたちに、どういう大人になってほしいと願うのか?」その軸がきちんとあれば、子どもたちは、それをきちんと理解してくれるのです。

いまは、私たち大人に、そんな軸がかけているように感じます‥
そして、「今さえ良ければいい。」という思考は、「今さえ良ければいい子ども」を育ててしまいます。 だからこそ、きちんと知り、考えていかなければいけないですよね。

私たちの「いまの選択」
それが、これからの社会をつくっていく。そして、 子どもたちの未来もつくっていくのです。

「今、私たちが選択する行動は、7世代先にも影響を与える。」というアメリカンインディアンの教えを知っていますか? 自然を尊い、自然とともに生きたインディアンの教えには、現代人が学ぶべきものがたくさんあります。

「今治市の取り組み」からも、次世代の子どもたちのことを考えた行動が、足し算のみならず掛け算のように発展していってることがわかりますよね。

だからこそ、私たちもこれに学び、日々の選択に「これから先を生きる子どもたちのイメージ」を足していきましょうね。それは、きっと自分の家族のみならず、地域社会までもを変えていくチカラとなっていくはずです。

男の子(横顔)

みんなが Happy な社会がいいね!